変わっていこうとする私の目の前で、

たったいま変わっていく最中のひと、

変わることをやめたひと

 

寒いはずの昼間に春のようなあたたかさを感じることが不思議なように

 

電車内のアナウンスの穏やかさがいつもと変わらないのが不思議になるほど

 

変わらない世界が変わっていく

 

私が書くということで

これから向き合うひと

向き合ってきたひと

ひとつ得て、ひとつ取り返せなくなった

 

穴が空いた部分を

口紅を塗らないという行為で埋める

 

ちゃちな感情だというかい

重さや激しさが足りないというかい

 

あなたになんと言われても良い

 

書いて書いて

過ごし良いものを一緒に探してきたように

これから探していくように

 

私は書いたそれだけだ。

いま、私は大人になっていく途中だと思う

 

10年前、「あなたは私達が思っているよりずっと大人なんだよね」と言われた

 

でも、全然ちがうとおもった

 

なにもわからないと思っていた

なにもわからないから大人じゃあないって

 

でも当時の私は自分がおもっていた以上に大人で

本当は分かっていた

「こうあってほしい」とおもうほど世界は優しくないこと

 

ただ、それを受け入れきれなかったから

やっぱり、大人ではなかった

「戯曲は誰かの1日を特別にするためにある」

 

 

この言葉がこんなに痛かった日は、もう来ないと思う

 

殴りこむような千秋楽

 

こんな感情が、1日で終わってたまるか

 

これが、紙に書かれた物語だったら、ヒューマンドラマに分類される物語だったら、私は色々と文句を言っただろう

 

死を物語に使うには、

私たちは若すぎる

 

誰かの真似事だったのなら早急にやめろ、と

 

ただあなたは
紙に収める余地も能わず
誰にも何も言わせないまま使ってしまった

 

ただ、あなたの死を扱う気持ちは

他の誰よりどこか綺麗で

 

私のなかにある感情は

後悔も怒りもなくただの悲しみ

 

私なりに色んなものを見て

これは良くないと思っていたものが

それは絶望でしかないと思っていたものが

絶望はただただ闇でしかないと思っていたものが

あなたの物語で静かに混ぜられて

新たな一面を見た

 

あなたの死を「絶望だった」と誰かが言う

たしかに絶望だったんだろう

でも誰かが思うような絶望じゃない、

少なくとも昨日の私が思っていたような絶望ではない

 

苦しみ恨みやるせなさ

どうしようもない気持ち

たった1人の代役を誰にも頼めない恋しさ

 

幸せを過去にして

 

それらと釣り合いそうな幸せを得られるような選択肢をすべて殴り捨てて

 

だって、大事な幸せが

何とも釣り合っちゃいけなかった

間延びして風化なんてさせちゃいけなかった

 

 まして、絶望に刺されて

「不幸だったね」などと言われるわけにはいかなかった

 

あなたは幸せだった

 

だから

 

絶望にした

 

私たちが何か言う隙も与えないうち

 

その一連の動作の終わりを

文字通り劇的にすることによって

それをそのまま物語にした

 

絶望という字に付き纏う不幸のにおいが

あなたの物語の中ではすごく薄いのに

 

唐突に物語が終わったことを

私たちはゆっくりとしか飲み込めない

 

 

間を大事にしてとは言ったけれど

 

何も言わないあなたの顔

 

いま、必要だったかな

 

 

 

そんなふうにして

 

あなたの言いたかったことは、

こんな端っこの人間にも

少しかもしれないけど

どえらい重さで伝わってきて

 

だけれども

受け取りきれずに混乱する

「私たちの過ごした時間は、こんなことを言うためのストーリーの一部だったのだろうか」

「もう少し終わりを延長したって

結末をそんなにまで劇的にしなくたって」

 

彼女は自分が用いた手法の劇薬っぷりを分かっていなかったのだろうかと思ってしまうほど

 

いままでの感情が

こんな劇薬を使わねば

その感情に見合う物語にならないと信じて疑えない

そこに、子どもっぽさがあって

何故か、綺麗さがまたあって

 

 

 

降参という気持ちと

でもやはり責めたい気持ちと

 

 

あなたが提供した戯曲に

なにか、なにか、感想を言うとしたら

 

すごく綺麗だったって

 

でも

他人の手で押し上げられた形に固まった頬は

あんまり好きじゃなかったって

 

 

自分で筋肉を動かして笑うあなたが

今日見た何より美しかったって

 

言うかな

 

今やっとそのくらいのことが言えるくらいに言葉がまとまって

でも時間が経ったらやっぱり強い言葉であなたのことを責めるだろう

心を震わされこそすれど、納得していない

納得できていない

 

あとは、

せめて、あなたの中でくらい最高に特別な日になっていればいいと

私だったら、あなたより「良い」結末を書いたと

負け惜しみを言うことしかできない

 

そうだ、

あなたに初めて見てもらった私の物語じゃ

全然敵わなかったな

 

 

当時の私が書きたかったことは

あなたの抱えていたものと近いと思っていた

 

でも

ごっちゃにしちゃいけなかったこと

今日知ったよ

ごめんね

 

 

今度会ったとき訂正しよう

だから、またね

 

やってらんないんだ

お酒みたいな恋が目の前にあっても

あなたの何でもない写真に心をやかれる

なにを見ても

あなたの虚ろな影に根を張っていた

その夢がまだ覚めきっていないらしい。

「しあわせ」のなかで幸せになりきれなかった。

私はいつもそう

選んで消えたひとの影が

選んで残っているものが

足音を立てて私をどこかへ連れていく。

あぁ

あなたのそのセリフがあなたを作る成分でなくて

純粋に私に向けられたものだったらな。

あなたがいた世界から、抜けられていないことは知っていた。

あなたがいた世界の延長で、

でもさ、私は確実に、変わったつもりでいたんだよ

なにか、薄まっていくものの中で、ようやく息継ぎができるくらいの気持ちになって

 

完全にあなたを責める気持ちになって

あなたに愛されたくもなければ

あなたが今日なにをしているかも関係なくってさ

 

苦しさなんて、とうの昔に忘れていたのさ

 

あなたが私の知らない世界で幸せそうに嬉しそうにするたび私の胸は苦しかった

あなたの世界に私はカケラも要らないんだ

それを認めるだけのことにとんでもない時間を費やして

その位置に引き戻されて

あぁ私は自分が思う以上に、いま、あわくて甘い夢を見ている

誰かが、自分の世界にすこしでも私を必要だと言ってくれるなら、

その人の世界にすこしでも惹かれるんだったら、迷いなく行ってしまってもいいんじゃない

だって私は切実にそれを願っていたのだもの

私を欲しいと言ってくれるひと、

めったにいないって

いまは、そんな気分なのさ

振り切るように春を迎えてもいいって

そんな気分なのさ

本当は優しくない行為を、

優しさだと思ってあなたは私に贈って

私はそれを優しさだと受け取って

それを積み重ねたらとても虚しくなったんだ

こんなもの?こんなもの?

こんなもの、こんなもの、

正解は知らないけど

それが正解でないことには

どこかで気づいていた

水を飲んでもあなたを思い出す日々です

リアルに思い出すほど

正解は分からなくなる

ただ、すこしボヤけた記憶であなたとの時間をたどるとき、

私たちの間違いを知るのです

甘ったるい息の音

視線とか体温も

偽物じゃないから

そこにある間違いが輪郭を持てずに私たちの間に生まれて大きくなってしまったのです

私たちは私たちでいなくてはいけない

他の人たちと同じである必要はないけど

私たちらしく笑っていなくちゃいけなかった

私たちらしく最高にしあわせだったらよかった

あってもいいけど

なくてはならないものにはなれなかった

あの日会いたかった

全部言った、言いたいことは全部言ったと泣いた

本当に言いたかったことは、言えなかった

言ってほしかったことは分かりきっていたのに

平気なふりをして

でもそんな言葉が欲しいばっかりに嘘をついて

そんな自分の行為が自分に突き刺さる夜

さよならと言いながら泣いた

あなたは不思議そうな顔をした

まだ分からないのか

分からないふりをしているのか

たぶん後者で

ねえ私に必死になれなかった人、

あなたと私の温度差がとても苦しかったけれど

あなたももしかしてそうだった?

そんなこと聞いてもどうしようもないけど

足元に咲いた小さい花を摘んで指先でくるくるとまわした

ねえきれいね

こういうどうでもいい話をあなたとたくさんしたかったけど

あなたはこういうのをつまらなそうに聞いてたね

嫌なことを思い出すときは

いっぺんに思い出していっぺんにあなたのこと嫌いになるの

私は長い長い夢を見ていました

夢がさめて

束の間の冷静な日常を経て

またいつか夢を見るんだろう

そしてその時にまたあなたの影を見たりして

嫌になったりして

あぁとにかくさよならだ

ありきたりな不幸せはもういいんだ

 

終わらないんだ

終わらないんだよ

むりやり新しいものを抱えたって

風を感じたって

あなたを想いたい気持ちは続いていくんだ

そういうふうに生きたいと

あの日そう願って呪いをかけたんだ

自分にさ

だから終わらせたいと思ってじたばたと体力を削るの意味はあっても無駄なことで

腕に残ったシミみたいに

しばらくは目障りでも慣れていくしかないし

そのシミがあっても生活していくように

あなたをおもいだす習慣を持ったまま

それを当たり前に生活していくしかないんだ

「あなたの体内に流れる色が私と違うから、あなたは私の言葉を摂取すると嫌な化学反応をおこすの」

いっそあの子とそうだったみたいに

端からうまくいかないと分かっていれば

夢は完全な夢で続いていったのに