「戯曲は誰かの1日を特別にするためにある」

 

 

この言葉がこんなに痛かった日は、もう来ないと思う

 

殴りこむような千秋楽

 

こんな感情が、1日で終わってたまるか

 

これが、紙に書かれた物語だったら、ヒューマンドラマに分類される物語だったら、私は色々と文句を言っただろう

 

死を物語に使うには、

私たちは若すぎる

 

誰かの真似事だったのなら早急にやめろ、と

 

ただあなたは
紙に収める余地も能わず
誰にも何も言わせないまま使ってしまった

 

ただ、あなたの死を扱う気持ちは

他の誰よりどこか綺麗で

 

私のなかにある感情は

後悔も怒りもなくただの悲しみ

 

私なりに色んなものを見て

これは良くないと思っていたものが

それは絶望でしかないと思っていたものが

絶望はただただ闇でしかないと思っていたものが

あなたの物語で静かに混ぜられて

新たな一面を見た

 

あなたの死を「絶望だった」と誰かが言う

たしかに絶望だったんだろう

でも誰かが思うような絶望じゃない、

少なくとも昨日の私が思っていたような絶望ではない

 

苦しみ恨みやるせなさ

どうしようもない気持ち

たった1人の代役を誰にも頼めない恋しさ

 

幸せを過去にして

 

それらと釣り合いそうな幸せを得られるような選択肢をすべて殴り捨てて

 

だって、大事な幸せが

何とも釣り合っちゃいけなかった

間延びして風化なんてさせちゃいけなかった

 

 まして、絶望に刺されて

「不幸だったね」などと言われるわけにはいかなかった

 

あなたは幸せだった

 

だから

 

絶望にした

 

私たちが何か言う隙も与えないうち

 

その一連の動作の終わりを

文字通り劇的にすることによって

それをそのまま物語にした

 

絶望という字に付き纏う不幸のにおいが

あなたの物語の中ではすごく薄いのに

 

唐突に物語が終わったことを

私たちはゆっくりとしか飲み込めない

 

 

間を大事にしてとは言ったけれど

 

何も言わないあなたの顔

 

いま、必要だったかな

 

 

 

そんなふうにして

 

あなたの言いたかったことは、

こんな端っこの人間にも

少しかもしれないけど

どえらい重さで伝わってきて

 

だけれども

受け取りきれずに混乱する

「私たちの過ごした時間は、こんなことを言うためのストーリーの一部だったのだろうか」

「もう少し終わりを延長したって

結末をそんなにまで劇的にしなくたって」

 

彼女は自分が用いた手法の劇薬っぷりを分かっていなかったのだろうかと思ってしまうほど

 

いままでの感情が

こんな劇薬を使わねば

その感情に見合う物語にならないと信じて疑えない

そこに、子どもっぽさがあって

何故か、綺麗さがまたあって

 

 

 

降参という気持ちと

でもやはり責めたい気持ちと

 

 

あなたが提供した戯曲に

なにか、なにか、感想を言うとしたら

 

すごく綺麗だったって

 

でも

他人の手で押し上げられた形に固まった頬は

あんまり好きじゃなかったって

 

 

自分で筋肉を動かして笑うあなたが

今日見た何より美しかったって

 

言うかな

 

今やっとそのくらいのことが言えるくらいに言葉がまとまって

でも時間が経ったらやっぱり強い言葉であなたのことを責めるだろう

心を震わされこそすれど、納得していない

納得できていない

 

あとは、

せめて、あなたの中でくらい最高に特別な日になっていればいいと

私だったら、あなたより「良い」結末を書いたと

負け惜しみを言うことしかできない

 

そうだ、

あなたに初めて見てもらった私の物語じゃ

全然敵わなかったな

 

 

当時の私が書きたかったことは

あなたの抱えていたものと近いと思っていた

 

でも

ごっちゃにしちゃいけなかったこと

今日知ったよ

ごめんね

 

 

今度会ったとき訂正しよう

だから、またね