まだ終わりきってない

冬の夜の寒さの中

あなたは力いっぱい私を抱きしめた

 

まだ、もう、まだ、もう

まだ、ソメイヨシノは咲いていなくて、

あなたの後ろ姿は変わらなくて、

でももう、あなたと歩いた道の日差しは暖かく、梅がほころび、

あなたが隣にいないことにも慣れていた。

 

「頑張るから」

あなたが私のむこうに見た、なにかに繋いでみるから

以前のように、

 

走り出せ

自分の時間を売る

その2時間であなたを世界に繋ぐための素材が得られるなら安いもんさ

「こちらからあなたを誘うことはもう無い」

2回の誘い文句のあとで私の手を掴んであなたはそう言った。

何に期待して、どうして私の手を掴んだのか

あなたにだってわかっていない

うまくいかない甘い闇

私達はいつまでもこの中を揺蕩うわけにはいかない

それだけが2人ともわかっているきっと何かの鍵

日が昇りきらないうちから私達は起きだす

胸の中には未来への地図を

あなたの求めるものの本当の形を私は探しだしたい

2人で狭い世界を歩きまわり、その中に見る自分の過去を語り合う

その先に未来はあるだろうか

無くてもいいね、

過去の栄光も傷も笑い合う

そんな今を2人で生きるのさ

1人でいれば皮肉なことを考えて立ち止まるような夜もあなたといれば笑えるということ

それを知っているだけでいい

でも、叶うなら、私の原風景を見たときにあなたが気づいてくれたらいい

今まであなたが捉えられなかった私の構成要素

こんな景色から私が出来ていたのかと

思ってくれたなら

あなたが私のことを知っていると言うことができるから

そうあったら私には一等賞だ

 

また悲しい別れがこの先にあったんだとしてもそれはあなたを大事にしない理由にはならないから

 

「あなたとの別れは、悲しみ抜くと決めた」

そんな私の言葉に、あなたは意外そうな顔をした

悲しかったのか、と。

そんな当たり前が通じていなかったのかとこちらも驚く。

強がりばかり言って、あの日の涙の理由を隠してしまった罰だ。

この先、どんな形であれ、あなたともう一度必ず別れなければならない。

そのときは、素直に悲しいと言えるそんな私であろうと思うのだった。

「この話、もうこれ以上面白くならないと思う」

私が図書館から借りてきた本を半分程度読み、彼女はそう言った。

そう、と私は答えた。その作家のものは読んだことがなかったし、借りる前に最初の1、2ページに目を通しただけの本にあまり期待はなかった。

それに、彼女の感性と私の感性には言い表しにくい違いがある。こと小説の評価に関してはそのズレが大きく感じられた。だから、結局のところ私も読んでみなければ、私にとって面白くないかどうかはわからない。

 

彼女は、飾りっけのない人だった。

その年齢の多くの女性が求めるような華やかさで外見を飾ることはめったになかった。彼女が化粧をしているのを、すくなくとも私は見たことがない。その反面、自分の思った通りに見られたいと思っていて、着ている服が似合っていると褒めると喜んだりもする。

私の感性と彼女の感性にはズレがあるが、彼女の感性が私は好きだった。

彼女が選ぶ服は、私は決して買わない類だが彼女が着ればとても素敵に見えた。シンプルな対人関係に反して、刺激が強い作品を好む、そのギャップもまた私には面白かった。

だから、私は彼女が「面白くならないと思う」と言った作品が、どんな作品なのかが気になり、彼女の読みさしの本を手に取る。

期待していなかったはずの本に、不思議な形で期待が生まれている。それが可笑しく思えることを、彼女に話したらなんと言うだろう。理解してもらえるだろうか。

そんなことを考えるのがまたさらに可笑しくて、私の「ねえ、」と言う声が笑っている。

そうして彼女の名前を呼んだ。

 

 

なんとなく、あの人と離れて歩いた冬の日の終わりが身体の芯までしみ込んで、

これを乾かしきらないほうがいいのか

そんなことを迷う春の日の中です

 

あの人の心を正面から貫くキラーチューンを私にくださいレジェンド

私はその歌を彼の家の狭いキッチンで、

彼の前でさりげなく歌って、

名も無き料理をどうでもいい話をしながら作って食べる、

そんな景色を彼の目の裏に貼り付けておいてほしいの

そしてレジェンド

あなたの歌を聞くたび彼はこの景色をぺろんと思い出して

誇らしく思ったり忌々しく思ったり感傷に浸ったりするの

あなたはそんなふうに誰かの記憶に残る作品を残せるのなら素敵って思うんじゃないかしら

私そのお手伝いをするから

だからお願い